2013年2月19日火曜日

クラークコレクション


三菱1号館美術館

   アメリカはマサチューセッツの山間盆地の田舎町ウイリアムズタウンにある美術館、スターリング アンド フランシーヌ クラーク アート インスティチュートには三度足を運んでいる。(ヨーロッパ駐在日記 1996年 3月 ウリアムズタウン 、つくばにて 2011年 9月3日 ルノワール「コンサートにて」 http://tsukubanite.blogspot.jp/2011_09_01_archive.html、つくばにて 2011年12月5日 スターリング アンド フランシーヌ クラーク アート インスティチュート http://tsukubanite.blogspot.jp/2011_12_01_archive.html#8760764850198347777

 その理由は、この35年我が家の居間を長年にわたって飾っている複製画、ルノワールの「コンサートにて」の本物を見るためである。世界的には無名の美術館であるため、3度とも訪れた時には見学者は数名であった。自然豊かな町の中でゆっくりと過ごした思い出が残る。

 今、東京でこの美術館の展覧会が開催されている。東京駅前丸の内にある三菱1号館美術館がクラークコレクションと銘打って催している。本日、東京の税務署で確定申告を済ました後訪れた。印象派を中心とした有名な絵画がずらっと展示され、館内は満員、来客者がわずかであるアメリカ本場の雰囲気と対照的である。もちろん「コンサートにて」も見ることが出来た。

 説明によると、もともとこの絵には後ろに男性も描かれていたとのこと。それを隠すためバックにはカーテンのような色が塗られており、よく見ると男性の面影がみられるという。じっくり見てみたがもう一つわからなかった。

 有名な絵画をたくさん展示しているのであるが、すべて表面には透明板でカバーされており、油絵の醍醐味である凹凸感からくる迫力が感じられなかった。アメリカ本場では確かカバーはなくその迫力に圧倒された思いがある。我が家にある複製画でも凹凸が描かれており油絵の趣を表現している。損傷に対する対策かもしれないが今回の展示の方法は残念である。

 不満の残る展覧会であったが、この美術館が世界的に知られる一歩となったことは間違いないようである。

2013年2月5日火曜日

低炭素社会を目指して


     18世紀後半にイギリスで始まった産業革命はその後全世界に波及し,この20世紀の前半まで資源は無限であるような錯覚の元に資源消費量を拡大させ,世の中を豊かにしてきた。しかし,一方で鉱毒被害,水俣病,四日市ぜんそく,そして最近では原子力発電所の事故による放射線被ばくなどの環境問題も深刻になり人々を苦しめる負の歴史も作ることになった。
 資源の枯渇対策と共に,特にこの20年来炭酸ガスによる温暖化現象も現実のものなりその対策が世界的課題となっている。その方策の中で,素材面からの対策の可能性について新しいナノ素材,特にカーボンナノチューブ,グラフェンによる貢献が期待されている。
  金属材料として鉄,銅,アルミなど,無機材料としては石材,ガラス,有機材料としては材木,植物材料,皮,繊維状のものとして綿,羊毛,絹など使われてきたが,20世紀の最大の発明の一つはナイロンに始まる高分子合成による材料開発である。その後たとえば繊維の世界ではポリエステル繊維,アクリル繊維,今ではアラミドなどのスーパー繊維などが続々と発明され,高分子材料の世界は飛躍的発展を遂げた。20世紀は高分子材料の時代といえる。
  一方,20世紀後半からは炭素繊維が開発され21世紀に入り多方面でその軽量・強靭性能でエネルギー削減に大いに寄与している。
   今後のエネルギー問題を考えるとき21世紀の時代の重要な位置を持つ素材の一つがカーボンではないかと考えられる。カーボンの歴史を見ると,鉛筆の芯で有名なグラファイト,宝石,研磨材のダイヤモンド,タイヤ補強に使われるカーボンブラックなど今までもいろんな分野で使用されてきた。そして近年発見されたのがフラーレン,カーボンナノチューブ(CNT),グラフェンなどナノカーボン素材である。
 これらカーボン素材としてカーボンナノチューブ,グラフェンはいろいろな用途に展開できるとして期待されている。このためNEDOプロジェクトとして「低炭素社会を実現する単層CNT複合材料開発プロジェクト」 (独立行政法人産業技術総合研究所が開発したSupper GrowtheDIPSによる単層CNTの研究開発) を技術研究組合単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)が受託し,これら素材の基盤研究から,その応用研究まで鋭意開発が進められている。
  将来自動車はガソリン自動車から燃料電池車、電気自動車に切り替わり,小回りのきく超小型自動車が発展し,空では格安ジェット旅行を実現する小型ジェット機が普及,運搬・観光・通信用などに太陽電池・燃料電池による飛行船が,海では風力利用帆付き・太陽電池・燃料電池動力のエコシップなど乗り物の世界も様変わりすることが予想される。


 特にエネルギーディバイスの分野ではカーボンナノ(CNT)素材の威力を発揮する応用分野の展開が可能である。高分子電界質型燃料電池では導電体担持活性炭のCNT化,色素増大型太陽電池では,対極基板白金のCNT化,有機薄膜型太陽電池では金属性CNT使用透明電極使用,リチウムイオン電池では正極・負極材に使用,電気二重層キャパシタでは活性炭のCNT化などによりその性能を飛躍的に向上させることが可能と期待されている。
    このようにCNTの応用分野は広いものがあるが,大きな問題はCNT自体の価格が高いことにある。特に性能が優れている単層CNT(SCNT)の価格は現在数100万円/kgと言われており,現状の価格では使われる用途は限られる。応用展開が進むにはコストダウンも含めたCNT自体の製造技術革新がさらに必要となっている。
  先にあげたエネルギーディバイスでの展開はCNT価格10万円/kg前後でも実用化が可能と思われるが,高強力を利用する航空機胴体,自動車車体,風力発電ブレードなどへの適用には価格が1万円以下になることが条件となるであろう。
   すなわちこの条件を満たす次世代CNT生産技術開発が望まれるところで,その開発成功が大きな産業に成長するキーとなると予想している。このように新規材料が大量に安価に供給されることにより,実用化範囲が大きく広がり,その際に必要となる技術開発,表面界面に関係する物理的,化学的特性の解明など,幅広い分野にわたり基礎研究から実用化研究の加速も予想される。その結果低炭素社会実現に大いに貢献することが可能になる。
    地球の資源開発の中で深海開発は資源問題解決のこれからの重要な課題となる。高強力CNT繊維の開発により深海開発用ロープへの適応も期待される。10000m以上の深海に届く素材は現状存在しない。スチールの場合自重により切断するといわれている。深海資源の開発を可能にする深海ロープの開発も重要な課題と考える。
    これら開発を進め,2020年には市場6000億円,2030年には1兆円を超える市場に成長することを期待している。それに伴い,2030年には炭酸ガス削減効果約5百万トン/年の効果が出るものと予想している。
 深海ロープの開発の延長線上には,夢物語と考えられている宇宙エレベーターの開発がある。昨年2月大林組がその実現に向けての構想を発表している。
    それによると,2050年には完成させるというもので,実現には2030年までに150GPaの強度もったケーブルを開発する必要があるとしている。現状その可能性を秘めているのがCNTではないかと考えられ,宇宙エレベーターが現実のものとなれば宇宙活用の産業などによるエネルギー問題の解決に向けたまた新しい世の中の創出に寄与できるものと期待され,今後の成り行きが注目される。

  一方アスベストの経験から,カーボンナノチューブのみならずナノ物質の安全に対する危惧が持たれている。非常に重要な検討事項で,TASCでは研究テーマとして自主安全評価測定技術開発も合わせて実施している。将来には世界標準に成すべく努力が必要であるが,まずは自主的な管理基準を決めるための手法を確立するのが目的である。
    低炭素社会に貢献する素材として期待されるものが,人の健康・安全に害することによる負の歴史を繰り返してはならない。少なくとも安全に使用が可能な基準を確立することが急がれる。
    このように20世紀の高分子材料の時代から,21世紀は新しいカーボン素材発展の時代になっており,グラフェンも含めたナノカーボンの新しい素材があらゆる部材に使用され,エネルギー問題,炭酸ガス問題の解決に貢献することが予想される。官民あげてのますますの研究開発促進が望まれている。