2013年2月19日火曜日

クラークコレクション


三菱1号館美術館

   アメリカはマサチューセッツの山間盆地の田舎町ウイリアムズタウンにある美術館、スターリング アンド フランシーヌ クラーク アート インスティチュートには三度足を運んでいる。(ヨーロッパ駐在日記 1996年 3月 ウリアムズタウン 、つくばにて 2011年 9月3日 ルノワール「コンサートにて」 http://tsukubanite.blogspot.jp/2011_09_01_archive.html、つくばにて 2011年12月5日 スターリング アンド フランシーヌ クラーク アート インスティチュート http://tsukubanite.blogspot.jp/2011_12_01_archive.html#8760764850198347777

 その理由は、この35年我が家の居間を長年にわたって飾っている複製画、ルノワールの「コンサートにて」の本物を見るためである。世界的には無名の美術館であるため、3度とも訪れた時には見学者は数名であった。自然豊かな町の中でゆっくりと過ごした思い出が残る。

 今、東京でこの美術館の展覧会が開催されている。東京駅前丸の内にある三菱1号館美術館がクラークコレクションと銘打って催している。本日、東京の税務署で確定申告を済ました後訪れた。印象派を中心とした有名な絵画がずらっと展示され、館内は満員、来客者がわずかであるアメリカ本場の雰囲気と対照的である。もちろん「コンサートにて」も見ることが出来た。

 説明によると、もともとこの絵には後ろに男性も描かれていたとのこと。それを隠すためバックにはカーテンのような色が塗られており、よく見ると男性の面影がみられるという。じっくり見てみたがもう一つわからなかった。

 有名な絵画をたくさん展示しているのであるが、すべて表面には透明板でカバーされており、油絵の醍醐味である凹凸感からくる迫力が感じられなかった。アメリカ本場では確かカバーはなくその迫力に圧倒された思いがある。我が家にある複製画でも凹凸が描かれており油絵の趣を表現している。損傷に対する対策かもしれないが今回の展示の方法は残念である。

 不満の残る展覧会であったが、この美術館が世界的に知られる一歩となったことは間違いないようである。

2013年2月5日火曜日

低炭素社会を目指して


     18世紀後半にイギリスで始まった産業革命はその後全世界に波及し,この20世紀の前半まで資源は無限であるような錯覚の元に資源消費量を拡大させ,世の中を豊かにしてきた。しかし,一方で鉱毒被害,水俣病,四日市ぜんそく,そして最近では原子力発電所の事故による放射線被ばくなどの環境問題も深刻になり人々を苦しめる負の歴史も作ることになった。
 資源の枯渇対策と共に,特にこの20年来炭酸ガスによる温暖化現象も現実のものなりその対策が世界的課題となっている。その方策の中で,素材面からの対策の可能性について新しいナノ素材,特にカーボンナノチューブ,グラフェンによる貢献が期待されている。
  金属材料として鉄,銅,アルミなど,無機材料としては石材,ガラス,有機材料としては材木,植物材料,皮,繊維状のものとして綿,羊毛,絹など使われてきたが,20世紀の最大の発明の一つはナイロンに始まる高分子合成による材料開発である。その後たとえば繊維の世界ではポリエステル繊維,アクリル繊維,今ではアラミドなどのスーパー繊維などが続々と発明され,高分子材料の世界は飛躍的発展を遂げた。20世紀は高分子材料の時代といえる。
  一方,20世紀後半からは炭素繊維が開発され21世紀に入り多方面でその軽量・強靭性能でエネルギー削減に大いに寄与している。
   今後のエネルギー問題を考えるとき21世紀の時代の重要な位置を持つ素材の一つがカーボンではないかと考えられる。カーボンの歴史を見ると,鉛筆の芯で有名なグラファイト,宝石,研磨材のダイヤモンド,タイヤ補強に使われるカーボンブラックなど今までもいろんな分野で使用されてきた。そして近年発見されたのがフラーレン,カーボンナノチューブ(CNT),グラフェンなどナノカーボン素材である。
 これらカーボン素材としてカーボンナノチューブ,グラフェンはいろいろな用途に展開できるとして期待されている。このためNEDOプロジェクトとして「低炭素社会を実現する単層CNT複合材料開発プロジェクト」 (独立行政法人産業技術総合研究所が開発したSupper GrowtheDIPSによる単層CNTの研究開発) を技術研究組合単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)が受託し,これら素材の基盤研究から,その応用研究まで鋭意開発が進められている。
  将来自動車はガソリン自動車から燃料電池車、電気自動車に切り替わり,小回りのきく超小型自動車が発展し,空では格安ジェット旅行を実現する小型ジェット機が普及,運搬・観光・通信用などに太陽電池・燃料電池による飛行船が,海では風力利用帆付き・太陽電池・燃料電池動力のエコシップなど乗り物の世界も様変わりすることが予想される。


 特にエネルギーディバイスの分野ではカーボンナノ(CNT)素材の威力を発揮する応用分野の展開が可能である。高分子電界質型燃料電池では導電体担持活性炭のCNT化,色素増大型太陽電池では,対極基板白金のCNT化,有機薄膜型太陽電池では金属性CNT使用透明電極使用,リチウムイオン電池では正極・負極材に使用,電気二重層キャパシタでは活性炭のCNT化などによりその性能を飛躍的に向上させることが可能と期待されている。
    このようにCNTの応用分野は広いものがあるが,大きな問題はCNT自体の価格が高いことにある。特に性能が優れている単層CNT(SCNT)の価格は現在数100万円/kgと言われており,現状の価格では使われる用途は限られる。応用展開が進むにはコストダウンも含めたCNT自体の製造技術革新がさらに必要となっている。
  先にあげたエネルギーディバイスでの展開はCNT価格10万円/kg前後でも実用化が可能と思われるが,高強力を利用する航空機胴体,自動車車体,風力発電ブレードなどへの適用には価格が1万円以下になることが条件となるであろう。
   すなわちこの条件を満たす次世代CNT生産技術開発が望まれるところで,その開発成功が大きな産業に成長するキーとなると予想している。このように新規材料が大量に安価に供給されることにより,実用化範囲が大きく広がり,その際に必要となる技術開発,表面界面に関係する物理的,化学的特性の解明など,幅広い分野にわたり基礎研究から実用化研究の加速も予想される。その結果低炭素社会実現に大いに貢献することが可能になる。
    地球の資源開発の中で深海開発は資源問題解決のこれからの重要な課題となる。高強力CNT繊維の開発により深海開発用ロープへの適応も期待される。10000m以上の深海に届く素材は現状存在しない。スチールの場合自重により切断するといわれている。深海資源の開発を可能にする深海ロープの開発も重要な課題と考える。
    これら開発を進め,2020年には市場6000億円,2030年には1兆円を超える市場に成長することを期待している。それに伴い,2030年には炭酸ガス削減効果約5百万トン/年の効果が出るものと予想している。
 深海ロープの開発の延長線上には,夢物語と考えられている宇宙エレベーターの開発がある。昨年2月大林組がその実現に向けての構想を発表している。
    それによると,2050年には完成させるというもので,実現には2030年までに150GPaの強度もったケーブルを開発する必要があるとしている。現状その可能性を秘めているのがCNTではないかと考えられ,宇宙エレベーターが現実のものとなれば宇宙活用の産業などによるエネルギー問題の解決に向けたまた新しい世の中の創出に寄与できるものと期待され,今後の成り行きが注目される。

  一方アスベストの経験から,カーボンナノチューブのみならずナノ物質の安全に対する危惧が持たれている。非常に重要な検討事項で,TASCでは研究テーマとして自主安全評価測定技術開発も合わせて実施している。将来には世界標準に成すべく努力が必要であるが,まずは自主的な管理基準を決めるための手法を確立するのが目的である。
    低炭素社会に貢献する素材として期待されるものが,人の健康・安全に害することによる負の歴史を繰り返してはならない。少なくとも安全に使用が可能な基準を確立することが急がれる。
    このように20世紀の高分子材料の時代から,21世紀は新しいカーボン素材発展の時代になっており,グラフェンも含めたナノカーボンの新しい素材があらゆる部材に使用され,エネルギー問題,炭酸ガス問題の解決に貢献することが予想される。官民あげてのますますの研究開発促進が望まれている。

2013年1月14日月曜日

みぞれの明治神宮

みぞれの明治神宮

本日は明治神宮に初詣に向かった。正月3ヶ日は大変な参拝者で車を置く場所を探すのに苦労するがすでに1月なかば、神宮内無料駐車場もすいており難なく駐車することができた。雨模様であったが参道を歩いている間にみぞれになった。気温は0℃に近い。お参りした後まもなく雪、東京自宅に戻る間に本格的な大雪になってきた。何とか積雪になる前に自宅に着くことができた。

午後昼寝をして起きてみると車は完全に雪だるま状態。情報を確認すると、首都高速はかなりの部分が通行止め、常磐道も閉鎖となってしまった。冬タイヤを装着していないため本日は車を東京に置いて、エクスプレスでつくばに戻ることになった。

都バスもほとんど動かず、地下鉄、エクスプレスでつくば駅に着いたのは18時半ころであった。ここまでは順調であったが駅前のタクシー乗り場は長蛇の列。寒い中いらいらしながら30分待ってようやく乗れた。タクシー運転手によれば先ほどのお客様は1時間待ったとのこと。半分の待ち時間で済んで気持ちも落ち着いた。つくばでも雪模様であったがすでに峠は越えていた。

今週の適当な時にまた東京に出向き車を取りに行く必要がある。年に1回くらいしかない出来事であり、冬タイヤを装着するのももったいなく、今回の不便さは我慢せざるを得ない。

2012年12月16日日曜日

クリスマスイルミネーション

我が家のモミの木

つくば駅周辺のイルミネーション 

 パリ凱旋門シャンゼリゼ通りのイルミネーション

  つくばエキスプレスのつくば駅周辺は毎年クリスマスシーズンにはイルミネーションが飾られる。今の時代LEDが普及しその豪華さは電球時代とは比べものにならないくらいあでやかな世界を作っている。

  ヨーロッパでは各家庭でクリスマスイルミネーションを飾ることが多い。ヨーロッパの冬は日が落ちるのが早く、長い暗い夜を楽しむ工夫の一つがクリスマスイルミネーション。特に有名なのがパリの凱旋門シャンゼリゼ通りのクリスマスイルミネーション。ドイツ在住時代には車でパリを訪れることが多々あったが、15年ほど前にその光景を写真におさめている。当時は電球であった。しかし当時からこのイルミネーションは鮮やかで華々しいものであった。今ではLEDにとってかわりさらに豪華極まりないものになっているものと思う。

  最近では日本でもイルミネーションで家を飾っているのを見かけ、ヨーロッパとまったく同じ雰囲気となっている。夜歩いていてもよそのお宅の飾りを楽しみながら歩くことも多い。これもLEDの普及が大きな役目を果たしている。LEDの作る世界が人々を楽しませている。

  本日は東京に出向き選挙に行った後、恒例の第九交響曲を東京池袋芸術劇場で楽しんだ。今年はいつもの日フィルであるが、指揮者はコバケンではなく井上道義であった。井上道義は神戸に住んでいた時、京都市交響楽団の指揮で聴いて以来であった。10数年前と同じようにエネルギシュで加えてメリハリの利いた指揮であった。

  今年も無事過ごせると思っていたが、1ヶ月ほど前に夜中ベッドから降りるときに床のスリッパで滑って背中を強打し、肋骨を折ってしまった。夢うつつの中での出来事であった。1週間は歩くのも痛く大変であったが、その後痛みも和らぎようやく正常な生活に戻った。気持ちは若いつもりであるが、体はすでに老化していることを知らされた。これぐらの怪我で済んだことを幸いとして、動作はゆっくりと確実にすることを心がける必要があると反省している。

2012年10月12日金曜日

ナノカーボンの時代へ

 カーボン素材と言えばダイヤモンド、黒鉛、カーボンブラックなど昔から世界で広く使われている。ダイヤモンドは装飾の他、工業的にも研磨材や切削工具など多くの用途に展開され、また黒鉛は鉛筆の芯、カーボンブラックはタイヤなどの補強材に使われカーボン素材は今までも材料の世界で重要な役割を演じてきた。

18世紀後半に始まった産業革命以来、19世紀は鉄の時代といわれた。そして20世紀初頭まだ高分子という概念のない時代に初めての人造繊維であるレーヨンが発明され高分子時代の幕開けとなった。1920年には、ドイツのシュタウディンガーが高分子の存在を唱えたが認められるところとはならなかった。高分子の存在の証明とその発展を決定的にしたのがデュポン社のカロザースによるナイロンの合成である。

20世紀はこの合成高分子という新しい素材の発展した時代でもあり、特に戦後石油化学を土台にした有機合成高分子材料が続々と発明され、私もその分野の一つである合成繊維に関連する技術開発に従事するという時代を過ごしてきた。

仕事に従事した時にはすでに衣料繊維としてのアセテート、ナイロン、ポリエステルが広範に普及し、そして産業資材繊維としての高強力ナイロン、HMLSポリエステル、またメタ・パラアラミドに代表されるスーパー繊維と合成繊維の技術開発の歴史をそのまま体験した。

一方では、20世紀後半にはカーボン繊維の開発も並行して進められた。しかしカーボン繊維は軽量で高強力ではあるが製造コストが高いことがネックとなり、最初は宇宙ロケットの素材など特殊な用途に限られ産業として確立するのには時間がかかることになる。

コスト高のこの素材はまずは民生用としてゴルフシャフト、釣り竿などのスポーツ用途に展開されたが、事業自体は赤字が続く。このため世界中の多くの企業がこの分野に参入したが耐えきれず、生き残ったのが日本の企業という歴史である。

日本企業は繊維構造欠陥部を減少させる製造技術の開発、生産性向上を図るなど地道な技術開発を続けた。また用途展開として軽量化の効果の最も出る航空機部材への展開を図り、ようやく事業としても成り立つようになった。このように21世紀のカーボン素材の時代への橋渡しの重要な役割を演じたのが日本企業であることを認識したい。

このような背景の中で、20世紀末には新しいカーボン素材としてナノカーボンが発見された。1985年にはフラーレンが、1991年にはカーボンナノチューブが発見され、そして2005年にはグラファイトからグラフェンをとりだすことに成功した。続々と新しいナノカーボン素材がこの世に出てきている。この21世紀は従来のカーボン素材・カーボン繊維に加えてナノカーボンの時代の様相を呈している。

その中で、カーボンナノチューブについては1991年の飯島博士による発見以来まだ大きな産業には至っていない。特にその特性が顕著な単層カーボンナノチューブについてはその製造が難しくコストも膨大で実用化にはまだ時間がかかるとされている。

このため、2010年から国のプロジェクトとして単層カーボンナノチューブの製造技術開発、用途開発を促進させるため技術組合単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)が設立されている。すでに各企業にサンプル提供を開始し実用途に結び付けるべく努力がなされており、2016年の実用化を目指している。加えてグラフェンについても製造技術と応用展開技術の開発が進められている。

将来の社会変革に伴い、例として電気自動車、燃料電池自動車、超小型自動車、エコシップ、小型ジェット、介護ロボット、工場農園などの分野が成長することが予想される。これら分野を支えるエネルギーディバイス(電池、キャパシタ類)、タッチパネルなどの透明導電膜、アクチュエーター、車体・飛行機・風車などの軽量構造体、LED用高熱伝導材料などにナノカーボン素材が使用される可能性が強い。

資源開発の面でも海に囲まれた日本では深海での資源開発が脚光を浴びており、これには深海ロープなどのケーブルが必要となり単層カーボンナノチューブが使用される可能性を秘めている。

そしてこのケーブル技術の延長線上には本年発表された大林組の宇宙エレベーター構想にも関係してくるものと思われる。計画では2050年には実現とのことであり、21世紀の半ばには新しい宇宙の時代になることを示唆している。

日本からナノカーボン産業の創生が実現出来ることを期待し、特に単層カーボンナノチューブプロジェクトの重要性を感じる今日この頃である。
 

2012年5月6日日曜日

単層カーボンナノチューブの可能性を求めて

     カーボンナノチューブの未来(TASCカタログより)
 
1. 蜘蛛の糸

  「カンダタという男が地獄で血の池の中で咽びながらもがいているのに、お釈迦様が天国で気がついた。この男人を殺したり家に火をつけたり色々悪事を働いたがたった一つ、善いことをしたこととして、小さな蜘蛛が一匹、路ばたを這って行くのを見て早速足を挙げて、踏み殺そうと致しましたが、“いや、いや、これも小さいながら、命のあるものに違いないとして急に思い返して、とうとうその蜘蛛を殺さずに助けてやったことを思いだした。それで天国から蜘蛛の糸を垂らしたところこの男はこれによじ登り地獄からの脱出を図った。」

  これは有名な芥川龍之介の小説「蜘蛛の糸」の一部要約である。その結末は、カンダタがこの蜘蛛の糸で地獄から極楽へ行けるかもしれないと登り始めたが、その糸の下にたくさんの罪人が登ってきて結局切れてまた地獄に落ちたという。物理現象としては蜘蛛の糸の強力では不足していたとのお話と理解する。小説ではカンダタが下からついて登ってくるたくさんの罪人を振り落とそうとした瞬間蜘蛛の糸は切れたということで、芥川龍之介は人としての生き方を伝えたかったものと思う。

 
2.繊維の歴史
                                                                                                                                           
  ところでこのような糸の材料である繊維の歴史を見ると、もともと衣服のみならず産業資材としての用途も長い歴史がある。その一つがロープ、タイヤコードのような線状の材料である。絹、麻、綿、羊毛などの天然繊維から100年ほど前にレーヨンという化学繊維が発明されその用途も広く拡大した。戦後は石油化学の発展によりナイロン、ポリエステル、アクリルの合成繊維が世界中で使われることになり大きな産業の一つとなった。さらに近年このような有機高分子化合物の大成としてパラアラミド繊維、超高重合度ポリエチレン繊維のようなスーパー繊維が使われるようになり、その機能を生かした用途も拡大し世の中の役に立っている。
 
3.単層カーボンナノチューブ(単層CNT)
 
  蜘蛛の糸はナイロンの数倍の強度を持っているといわれているがこのレベルの強度はすでにスーパー繊維の領域となっている。しかし、小説の世界とはいえカンダタのような体験を回避できる材料はこの世には存在しないようである。地獄に落ちたものは永遠に天国に登る手段はないということである。
 
  しかし今、その手段になりそうな素材が出現している。1991年、イギリスの科学雑誌「Nature」に発表されたカーボンナノチューブ(CNT)である。日本の飯島澄男博士がその詳細構造を世界で初めて明らかにし、その存在を明確なものした。もともと電子顕微鏡の権威で原子の規模までその顕微鏡写真に撮ることにも成功した研究者である。その後世界中の科学者・技術者がその製造方法、応用などの研究をしているが20年も経過してもまだ本格的な実用化には至っていない。
 
  CNTは単層と2層以上の多層からなるチューブ状の6炭素原子結合のナノサイズの材料であり、その中で多層CNTは比較的生産がしやすく一部市販されている。しかし、高強力などの特性を極度に発揮するには単層CNTが最も適している。今まで単層CNTについては生産制御が難しく大量生産が不可能とされてきた。また作るコストもあまりにも高く実用の採算ベースには程遠いことも大きな課題であった。
 
  この単層CNTは、鋼の20倍に相当する高強度の特性のほかに、銅の10倍の熱伝導性、アルミの半分の密度、構造の違いにより導電体と半導体の二つの性質、シリコンの10倍の電子移動度など、今までにない優秀な特性を持っている。天然資源に恵まれない日本にとって原料の心配の要らない素材で、その用途も高強力材料、放熱材料、半導体、導電材料、樹脂・ゴム・フィルムに混ぜることによる導電高分子材料、導電性を利用したタッチパネルなど応用範囲は広い。
 
  この日本で発見された素材をリーズナブルなコストで生産できる技術を開発し、加えて用途開発を促進する目的で一昨年国家プロジェクトがスタートした。その研究開発を実施する組織として技術研究組合「単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)が設立されている。
 
  企業5社と独立行政法人産業技術総合研究所(AIST)で構成され、単層CNT生産技術としてはAISTが開発したeDIPS法による単層CNT自体の生産制御技術の開発、並びにその素材を繊維化、複合化する技術の開発、加えて同じくAISTで開発されたスーパーグロス法による単層CNTを利用した複合材料の開発などを進めるものである。5年間の基盤研究・用途開発により将来の企業化を目指し、日本の根幹産業の一つにすべく努力が続けられている。発見者の飯島博士もTASCにアドバイザーとして参加している。
 
4.グラフェン
 
  一昨年のノーベル物理学賞はグラフェン発見者に与えられた。グラフェンはCNT、フラーレンと共に同じナノレベルの炭素化合物で、黒鉛であるグラファイトをその一層だけを取り出した平面状のものである。そのグラフェンが球状になるとフラーレン(この発見者もすでにノーベル賞を授与されている)、チューブ状になるとCNTということになる。この3つの炭素化合物は親兄弟関係になる。昨年度からは急遽グラフェンの研究開発もこのTASCで推進することになった。これらナノカーボン生産技術を完成させ、さらに応用展開を成功させれば日本での産業活性化に大きな役割を演じることを期待している。
 
  話はそれるが、ノーベル賞といえば一昨年の化学賞については長年勤めた会社にも在籍されていた根岸英一博士が受賞しこの上なく嬉しく思った。化学賞に与えられたのはクロスカップリング反応であるが、この反応の最初の考案者は偶然にも同じく長年勤めた会社の同僚であった。彼が京都大学熊田・玉尾研究室の大学院修士課程時代に考案したものであったことを知り(詳しくは「有機合成化学協会誌」2000年5月、と日本化学会誌「工業と化学」2011年1月に記載)、身近にノーベル賞級の研究者がいたことに世の中狭いものと感じた。著名な人物以外にも影の第一人者がいるものだというものの見方のよい例の一つと思う。
 
5.福島原発事故
 
  昨年の3月、東北では巨大地震、津波による大災害が襲ったが、さらには福島原発の事故が重大な問題を投げかけている。犠牲になられた方々、今も避難生活を余儀なくなされている方々がおられ本当に残念に思う。地震と津波は自然災害であるが原発事故は人災であるという側面も否定できない。人類は自然現象をうまく利用し世の中の人々の幸福のために役立ってきたが、歴史的に見ると逆に人々を苦しめた側面もあるのも事実である。今回の原発事故もその科学技術の負の側面を露呈したようだ。科学技術開発に携わるものにとって記憶にとどめると共に、常に負の側面も考慮した研究開発もあわせて実施することが重要であることを肝に銘じたいと思う。
 
  アスベストの経験から単層CNTの安全性についても十分な検討が必要で、重要な仕事との受け止め方をしている。単層CNTはアスベストとは異なり剛直ではなく、またカーボンであり、必ずしも同一視できるものではないというのが現在の考え方である。いずれにしも安全性についての研究も重要なテーマとしてTASCではその評価方法などの研究を実施している。的確な測定法の確立と客観的データーによる判断がなされるものと考えている。
 
  あってはならない原発事故が今起こり、福島周辺は通常とははるかに高い放射線に覆われ住民は避難している。福島近辺はこれから長期にわたって放射線の影響を受け、人は云うに及ばず、農産物、畜産物、海産物、土、水、海などすべてのものに影響を与えていくと心配される。
 
  一方、ドイツで1985年に初めて建設されたカルカールプルトニウム高速増殖炉は今、ワンダーランドカルカールという娯楽設備として営業している。この原子炉はチェルノブイリ事故のあと大論争となり、結局完成したが稼動することなく廃炉となったものである。今、ドイツカルカールの人々はこのワンダーランドで楽しみながら自然豊かな田園風景の中で生活を享受していることと思う。対照的な現状である。
 
6.負の歴史から学ぶ
 
  科学技術の発展により人々はその便利さと豊かな生活を享受しているが、一方では多大な負の歴史も作り出し人々を苦しめることも多かった。地震、津波、台風などの災害は人の力ではコントロール出来ないが、戦争、公害、薬害などの人災は人の作り出す悲劇で、人の力でコントロールできるはずである。人災を防ぐ方法はないものかとつくづく思う。
 
  このような負の歴史を作り出す源はパラドックス的詭弁ではないかと考えている。パラドックスとは、「兎が進む間に前を歩いている亀は少なくともわずか先に進み、さらに兎が進む間に亀はまたわずかでも進むので兎は永遠に追い抜くことが出来ない。」という例で代表されるように、論理的には正しく見えるが実際にはありえない論理をいう。
 
  自然科学の分野では論理・議論で決着をつけず実証主義によって決着をつけるのでパラドックス的詭弁は退けられ理論が確立する。しかし、自然科学以外の分野では論理による議論しか出来ない。このため議論の中で傲慢なパラドックス的詭弁が堂々とまかり通る。どんな考え方にもまずは肯定的に議論する、いわゆる「聴く耳を持つ」という土壌があればこのようなパラドックス的詭弁はかなり避けられると思う。
 
  「聴く耳を持つ」ということに加えて、実証主義実践不可能な分野では最後の基準として「人が傷ついたり死ぬことはないか、自然を壊わすことはないか、人のためになっているか」の3原則を基本に具体的な協議体制を構築し、それを民主的に公正に運用することで初めて人災たる負の歴史をなくすることができるのではないかと考える。
 
7.つくばの地
 
  TASCはつくばにあるAIST内に設立されたが、そこから北方を見ると筑波山が見える。その麓に蚕影(こかげ)神社という古びた社がある。その名に蚕という字が入っている通りこの地区が日本養蚕業の発祥の地であると伝えられている。
 
  養蚕業は戦前日本の輸出産業の花形で日本の外貨獲得の源であった。絹糸で出来たストッキングがアメリカ女性の足元を飾りもてはやされていたのである。当時養蚕業は今で言えば自動車産業のようなものであった。この神社には全国から多くの養蚕業の人々が参拝に訪れたという。参道階段の入り口には昔は旅館もあり参拝者が宿泊するなどたくさんの人々で賑わったそうだ。
 
  しかし、デュポン社がナイロンを発明、このナイロンが戦後世界的に普及し日本の養蚕業は壊滅する。いまでは参拝客もなくこの神社は廃墟に近い状況となっている。今はその参道入り口に古びた1軒の民家がありそこでほそぼそと絵葉書などを売っているに過ぎない。
 
  素材の変換はドラスチックに進む。花形産業も新しい商品の出現により消滅する。繊維の世界でも有機合成繊維の時代から、近い将来単層CNTのような新しい素材に取って代わることもあり得る。特に産業資材用途ではその可能性は強い。このつくばの地での単層CNTの研究活動を通じて新しい産業創出に成功し、つくばが新たに単層CNT産業発祥の地といわれるようになってほしいと願っている。
 
8.夢
 
  芥川龍之介は天国と地獄をつなぐ手段として蜘蛛の糸を使った。現実の世界での同じような発想として宇宙エレベーターがある。現在宇宙と地上を結ぶ手段はロケット、スペースシャトルなどあるが多くの人々を運ぶことは不可能である。宇宙エレベーターが出来れば多くの人々が比較的容易に宇宙に行くことができ、宇宙生活も可能になる。この宇宙エレベーターのロープには、この単層CNT製ならば使える可能性を秘めている。宇宙エレベーターを使って一般の人々も宇宙で生活しているという夢物語を思いめぐらし、単層CNTの可能性を求めてもうしばらく毎日を励みたいと思っている。

2012年4月8日日曜日

ギリシャの自然

          エーゲ海とスニオン岬(ギリシャ)              マラトンの丘            エーゲ海とリンドス(ロードス島)

今ヨーロッパで財政赤字からの経済危機に陥っているのがギリシャである。20年ほど前にギリシャの状況について記録を残しているが、その当時にも西欧でありながら後進国のような印象を述べている。

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ローマ帝国が東西に分裂して東に残ったのがギリシャ正教。カトリックと比べて教会は質素で、またキリスト像もない。未だに土葬とのことでアテネでは墓不足とのこと。ロードス島でマツダの三輪トラックが未だ走っているのを見て、EUの経済統合の中でギリシャは今後も経済的にはきびしい状況が続くと感じた。
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しかし財政赤字については他人事ではない。ギリシャの赤字額より日本の方がはるかに大きいのである。日本でも長期保守政権のつけがいよいよにっちもさっちも行かないところに来たようだ。
日本があまり問題視されないのは、工業先進国であり市井の人々が不満を持ちながらも真面目にそれぞれの役割を果たし続けており、いずれ何らかの対応がなされるものと世界がみなしていることに他ならない。真剣な市井の人々の働きに反し国を導くべき政治家のいい加減さを嘆かざるを得ない。今日本で本当に世の中のこと考え実行しているのは市井のNPOなどの人々だけのようである。
大震災の対応も決して迅速ではなく、また原発問題に至っては迷走している。財政危機の現実に対して政治家にはまずは自分達の歳費を返上してでもその方向性を示し、歳出削減という根本的対策を実践することが求められる。まず魁より初めよ、ということで初めて市井の支持がとれるというものである。
与党も野党も自らその姿勢を示すために歳費返上などの提案をすることは皆無である。この事実から見ても政治家、それを目指すものというものは税金泥棒と言わざる得ないといつも思う。
間接民主主義の選挙による議員制度の行き詰まりと限界を露呈しているようだ。今の政治制度を根本的に変える必要があると考えるのは私だけであろうか。その解決法は市井の人々すべてが政治に関与することと考える。現状の選挙制度による方法では市井の意見がなかなか反映しない。
政治家に任せず市井の人々すべてが政治に参加できる体制に変えるのである。その具体的方法は、国会は任期制、再任なしで無作為抽出の方法で各地区から人を選任し国政に関する議論を実施し、利点・欠点などを検討し、最終判断は国民投票で決定する方法である。現在のインターネットの世界ではこのような体制を作ることは容易である。国民の義務として無作為に選ばれた人は基本は無給であるが、その間仕事ができなくなる人には報酬保証は必要と考える。
今政治家を目指す人は世のためと言い選挙に出るが、結局は議員という特権を持つことにより、自分の名誉、利益、利権を優先するということになる。これは与野党共にいえることで、日本という国のみならず世界の政治家にいえる共通の事実ではないかと思う。
ギリシャの経済危機の原因はこのような政治体制の問題点にあるのみならず、根本的にはもう一つ大きな産業が育っていないことも指摘できるのではないか。危機を解決するには新しい産業を創出するという努力も必要と考える。エーゲ海を見渡す素晴らしい自然を持ったギリシャであるが、美しい国土を維持することが大前提であることはいうまでもないが。